向精神薬と副作用
向精神薬は、一時的に精神状態を高めてくれますが、諸刃の刃のような存在で、副作用を引き起すこともあります。
副作用とは、医薬品の使用によって生じる、治療者や患者が望んでいない全般的な作用をいいます。
特に、離脱症状(禁断症状)やアクチベーションシンドローム(腑活症候群)は危険性が高いのですが、医師は告知せず処方する場合がほとんどなので、もし自分で減薬する場合は特に注意が必要です。
①薬の服用によって起こるもの
本来ならば、各精神薬は目的とする役割をもった神経系統のみに作用することが望ましいのですが、実際、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンといったそれぞれの神経細胞のネットワークは下図のように繊維状に交錯し分布しているために、都合よく選択的に作用させることは難しく、関係のない多くの神経系統にも作用してしまいます。
この関係ない神経細胞や受容体に薬が作用することで、本来の治療目的とは意図しない症状「副作用」を起こしてしまいます。
抗精神薬や三環系抗うつ薬などでは、それぞれ、ドーパミン、セロトニン、アドナリンのトランスポーターや受容体に作用させることを目的としていますが、アセチルコリン、アドレナリン、ヒスタミンといった神経系統にも作用して副作用をもたらします。
例えば、三環系抗うつ薬の場合はセロトニンのみに作用させようとしても、実際は他の神経にも作用し副作用を起こす。
②離脱症状(禁断症状)
離脱症状とは、薬を急に中断した時に起こる症状のことで、禁断症状ともいい、覚醒剤や麻薬などを止めた時に現れるときによく知られた症状です。
手の震え、動悸(どうき)、発汗、頭痛、けいれんなどの不快な症状を引き起します。
向精神薬を長期服用、多剤投与者ほど症状が激しくなり、発生する症状は薬の種類などによって様々です。
常時、服薬をしているときはなかなか気づきにくいのですが、薬が切れてくると憂鬱感が激しくでたり、パニック発作を起こしひどい場合は救急車で運ばれることもあります。
その結果、その時の恐怖体験から薬を手放すことが不安になり依存症になることもあります。
そのため、服用量が多い人ほど急な断薬は危険度が高く、注意が必要な症状になります。
一度薬に馴染んでしまうと、減薬して後戻りが大変になる(医師は減薬に消極的でよく理解していない。また減薬に詳しい医師でも数年かかる場合もあります)ばかりか、薬を断薬できたとしても体調が服薬前よりも悪化し苦しむ場合もあります。
向精神薬が最も怖いのは、副作用ではなく、覚醒剤や麻薬のように薬の束縛から逃れられなくこの離脱症状です。
抗うつ薬による離脱症状の場合は「抗うつ薬離脱症候群」、睡眠薬、抗不安薬の場合は「BZ離脱症候群」と呼ばれています。
「抗うつ薬離脱症候群」で有名なのが、パキシルを急に中止したときに起こる「シャンビリ」で、これはシャンシャンといった耳鳴りと、ビリビリとした知覚過敏が起こるためにこのような名前がついています。
「パキシル」は2004年に危険度が比較的高い薬として問題となりましたが、現在も処方されることがあるので注意が必要です。
「BZ離脱症候群」は、ベンゾジアゼピン系の薬を中断したときに起こるもので、アルコールの離脱症状に匹敵するほどの激しさがあると言われています。
アルコール中毒から抜け出し、抗不安薬の処方に切り替える人も多いですが、依存性がアルコール並にとても高く、離脱症状も激しいことはあまり認知されていません。
海外では良く知られているのですが、日本では「安全な薬」として安易に処方され、被害に苦しむ人や命を落すケースも多発しています。(ベンゾジアゼピン系被害)
なぜ、離脱症状が起こるのかについてははっきりとは証明されていませんが、薬の強制的な作用により体が生理的に対抗しようとする結果、受容体の数が減少、(抗精神薬の場合は増加)するために起っているのではないかと推察されています。
③セロトニン症候群
抗うつ薬類を服用中に、脳内セロトニン濃度が過剰になることによって起きる副作用です。
症状としては、
体温の上昇、異常発汗、緊張、高血圧、心拍数の増加、吐き気、下痢、混乱、興奮、錯乱、頭痛、昏睡、混乱、興奮、錯乱、頭痛、昏睡など、基本的に交感神経が高まる症状がでます。
眼球がいろいろな方向に動いてしまう「眼球粗動」、足が固まって動かせない「強剛」、腕が勝手に動いてしまう「ミオクローヌス」の症状も現れることがあります。
また、ハーブの一種セント・ジョーンズ・ワートの過量摂取によっても起こります。
パニック障害や非定型うつ病といった交感神経優位の症状に、抗うつ薬が処方されると、症状が悪化するケースが多いので注意が必要です。
④アクチベーションシンドローム(腑活症候群)
SSRI,SNRIといった抗うつ薬で生じる中枢神経刺激症状の総称で、増量時に起こりやすいとされています。
不安、焦燥、不眠、敵意、衝動性、易刺激性、アカシジア、パニック発作、軽躁、躁状態といった症状や、最悪、リストカット、自傷行為、自殺といった行為に至る危険性があります。
また、攻撃性を高めることもあり、殺人事件に発展したケースもあります。
例えば、1999年にアメリカで起きたコロンバイン高校乱射事件の犯人の遺体からは、大量の抗うつ薬が検出されたことで世間にその危険性が示された事件として有名です。)
その後、日本でも2003年頃でも、パキシルを服用し攻撃的になることで話題になりました。
そのため、境界性パーソナリティー障害と間違われることもあります。
エリックの遺体を検死したところ、体内からフルボキサミンの成分が大量に検出された。このフルボキサミンをはじめとする抗うつ薬 (SSRI) は、24 歳以下の若年者が服用した場合に攻撃性や衝動性を増長するという副作用が報告されていたため、事件との関連が疑われた。実際、精神的な不安定さを抱えていたエリックは、精神科医からフルボキサミン(製品名「ルボックス」)を処方されていた。
事件後、被害者遺族らがルボックスの販売会社(ソルベイ社)を告訴したものの、ルボックスの服用と事件との因果関係は証明されなかった。ただし、米国内では裁判を通じてルボックスに対する風当たりが強くなり売り上げも激減し、2002 年より販売中止となったが、数年後販売が再開された。日本においても附属池田小事件の犯人が SSRI を服用していたことが報道されている
向精神薬の主な副作用の特徴
多剤投与の危険性
多剤投与とは、同じような薬効の薬が必要数を大幅に超えて多数処方され、かつ、それぞれの薬の量自体も本来必要な量より多い処方のことをいいます。
海外では70~90%は単剤投与で、3剤以上の投与は極稀ですが、日本の病院では複数の種類の薬を処方されることもめずらしくありません。
2011年の国立精神・神経医療研究センターの調査によれば、入院患者の42%がほかの精神科で3剤以上投与されていたようです。
日本における処方箋種類の数(2013年)
外来 | 入院 | |
1種類 | 38.7% | 43.5% |
2種類 | 18.9% | 23% |
3種類 | 21.9% | 11.7% |
4種類 | 5.7% | 5.9% |
5種類 | 8.2% | 6.1% |
無回答 | 15.6% | 9.8% |
下図の抗精神薬の例のように、薬の量がある量になると、ほとんど治癒反応は一定となり、副作用の効果が大きくなってくることがわかっています。
なぜこのような多剤処方がなされるのかというと、一つに、多剤大量処方に陥る原因は、単純に薬を多く投与したほうが効果が高くなるだろうという、誤った思い込みがあります。
また、もう一つの大きな理由が、「利益絡み」です。
処方量が増えると、当然、病院の利益に繋がってくるため病院側が儲かる事がすぐ理解できますが、さらにその背後には、製薬会社との絡みもあることがよく指摘されています。
薬が多剤・大量で用いられた後の減量は簡単ではない。各薬剤には離脱症状があり、抗精神病薬の離脱症状、抗うつ薬の離脱症状、精神刺激薬の離脱症状、気分安定薬の離脱症状、抗不安薬の離脱症状、睡眠薬の離脱症状としてよく知られているもののほかにも、副作用なのか、離脱症状なのか、あるいはもともとの疾患の症状なのかが識別困難な症状もある。また各薬剤間で作用を増減させる相互関係があり、増減した薬剤以外の薬剤によって副作用が増強されたり、離脱症状が出現したり、もしくは元の疾患が再発したりする可能性がある[69]。副作用や離脱症状が疾患と誤診される可能性もあり[69][70]、そのような場合にはさらに薬が追加されることになる[71]。
参考:多剤大量処方