抗うつ薬(三環系,SSRI,SNRI,NaSSA)の分類と作用/副作用

向精神薬

はじめに

抗うつ薬はセロトニン、ノルアドレナリン神経に作用することで低下したセロトニン、ノルアドレナリンの分泌を促し、意欲を高め倦怠感、憂鬱感を解消する薬です。
その化学構造、作用機序で開発された年代順に三環系、四環系、SSRI、SNRI、NaSSAといったグループに分類され、新しく開発された薬ほど治療効果が高く、副作用が低く抑えられます。
日本では、1998年から始まった「うつ病キャンペーン」で、抗うつ薬SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使用が広まり、「うつ病」「抗うつ薬」の知名度が高くなりました。
一方で、セロトニン症候群、アクチベーションシンドローム(自傷行為、自殺、境界性人格障害的症状など)、離脱症候群といった副作用もあり、危険性も指摘されています。


抗うつ薬の広がりの歴史

1955年に「イミプラミン」という成分を含んだ薬剤を“メランコリー”で入院していた患者に投与したことが抗うつ薬の始まり。「イミプラミン」は三環系構造をしており三環系(TCA)抗うつ薬の研究開発が始まる。
基本的に、抗鬱薬は「メランコリータイプうつ病向けに開発されたもの。(非定型うつ、新型うつには効かない)

1958年に最初の抗うつ薬「イミプラミン」が販売される。
以後三環系では副作用が強く、副作用を軽減した四環系が登場

1960代
うつ病がシナプス間のセロトニン減少で起こるという「セロトニン仮説」が提唱される。

1969年
パワーズがうつ病患者の脳脊髄液中セロトニン代謝物の濃度を測定したが、セロトニン濃度と鬱病重症度の間に相関関係がないことを確認

1984年
NIMHは、「セロトニン作動性システムの機能の亢進や低下そのものが、うつ病に関係するとは考えられない」と結論 。

1980年代 欧米で「うつ病キャンペーン」始まる
イーライリリー社が
「うつはセロトニンの減少で起きる」と言う説明を流布しプロザック(SSRI)の商業的成功を収める。

1998年 日本でもうつ病キャンペーン始まる
「セロトニン仮説」がメディアで大きく流されSSR(選択的セロトニン再取り込阻害薬)投与が日本で広まり製薬会社の売り上げ急増。
一方で自殺者急増し3万人越え。リストカット者も増加する。

2000年 
SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が販売。

2009年
NaSSAが販売される。(SSRI,SNRIより効果が高く、強い副作用はない)
リーマンショックや東北大震災で自殺者増えているという報道に関わらず、この頃から自殺者は次第に減少傾向。

2010年~は 双極性障害キャンペーン始まる
グラクソスミスクラインが抗うつ薬の採算の悪さに中止し、他の製薬会社も追従。変わりに「双極性障害キャンペーン」始まり双極性障害者急増中。

参考論文
抗うつ薬開発の歴史と未来

抗うつ薬の分類と種類

2.1 抗うつ薬の分類

抗うつ薬は、大きく世代別に

抗うつ薬の分類

・1世代・・・三環系(TCA)
・2世代・・・四環系
・3世代・・・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
・4世代・・・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・5世代・・・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

と分類されます。
三環系は最も古い世代のもので、効果は最も強い一方副作用が強いのが特徴で、特別な場合以外はあまり処方されていません。
四環系は、副作用が三環系より弱いものの効果も最も弱いものです。
SSRI、SSRIは三環系と四環系の副作用が軽減されたものですが、三環系よりも多量に投与されやすい傾向にあるためアクチベーションシンドローム(自殺願望、自傷行為、境界性パーソナリティー的症状、双極性障害、パニック発作)を誘発しやすいといった危険性をもっています。
最新のNaSSAは四環系でSSRI,SNRIで効果がなかった人でも効果が感じられるものですが、抗ヒスタミン作用により眠気がかなり強くでたり、食欲が亢進し太りやすくなるのが特徴です。

2.2 効果と副作用の強さ比較

抗うつ薬の強さ

効果の強さは
三環系抗うつ薬>NaSSA>SSRI=SNRI>四環系抗うつ薬
副作用の強さ
三環系抗うつ薬>四環系抗うつ薬≒NaSSA>SSRI≧SNRI
※ただし、SSRI,SNRIはアクチベーションシンドロームが起こりやすい。

2.3 抗うつ薬の種類

  作用 特徴 成分(商品名)
三環系
(TCA)

1世代
セロトニン
ノルアドレナリン

初期につくられた抗うつ薬で抗コリン作用を中心とした副作用が強い。

あまり処方されないが、重症の場合など特別なときに使用されるときもある。

アミトリプチリン (トリプタノール、ラントロン)
イミプラミン (イミドール、トフラニール)
クロミプラミン (アナフラニール)
ノルトリプチリン(ノリトレン)

 

アモキサピン (アモキサン)
ドスレピン(プロチアデン)
ロフェプラミン(アンプリット)

四環系

2世代

・ノルアドレナリンの再取り込み阻害
・セロトニンは疎外しない

即効性が高く 抗コリン作用は三環系より改善されているが、効果は弱くなりけいれんを起こしやすい。

抗けいれん用薬(ジアゼパム、ニトラゼパム等)と併用されやすい。
眠気がでやすい

塩酸マプロチリン(ルジオミール)
塩酸ミアンセリン(テトラミド)
マレイン酸セチプチリン(テシプール)
ミアンセリン(テトラミド)
セチプチリン(テシプール)

SSRI
(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

3世代

セロトニンの再取り込み阻害
量が増えるとノルアドレナリンも再取り込阻害

・効果には2週間必要
・副作用は三環系より弱い

・急に中断すると抗うつ薬中断症候群、アクチベーションシンドロームがでやすい。

フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)
パロキセチン(パキシル)
セルトラリン(ジェイゾロフト)
エスシタロプラム(レクサプロ)

SNRI
(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

4世代

セロトニン・ノルアドレナリン阻害薬   ミルナシプラン(トレドミン)
ベンラファキシン(イフェクサー)
デュロキセチン(サインバルタ)

SARI
トリアゾロピリジン系抗うつ薬

セロトニン再取り込阻害
5HT2受容体阻害
  トラゾドン(商品名レスリン、デジレル)

NaSSA
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬

四環系でもある

 

ノルアドレナリンα2受容体阻害
セロトニン5HT1受容体以外阻害

即効性がありSSRI、SNRIより効果高いものの国内の臨床試験で、82.7%に何らかの副作用が認められた。

50%は抗ヒスタミン作用で強い眠気がでる。

また、過食気味になり太りやすくなる。

SSRIとSNRIを併用するカリフォルニアロケットと言われる手法も行われる。

ミルタザピン(レメロン、リフレックス)

※カリフォルニアロケット
NaSSAが単剤では効果がないとき行われる。SSRIあるいはSNRIと併用しセロトニン、ノルアドレナリンの分泌を促進し抗うつ作用を高めますが、セロトニン濃度が高くなり「セロトニン症候群」を引き起す可能性もあります。

副作用

抗うつ薬の副作用は、他神経に作用する副作用以外にも、

・離脱症状
・セロトニン症候群
・アクチベーションシンドローム(腑活症候群)

といった症状が現れる特徴があります。

3.1 一般的な副作用

抗うつ薬は、主にセロトニンとノルアドレナリン神経に作用する薬です。
しかし、選択的にこの2つの神経系統のみに作用することは上手くいかず、他の神経系統
(アセチルコリン、アドレナリン、ヒスタミンなど)
にも作用するため、これが副作用を引き起してしまいます。

  1. 抗コリン作用(アセチルコリン受容体阻害) 
    →口渇、便秘、目のかすみ、排尿困難など
  2. アドレナリンα1受容体遮断作用
    →低血圧、めまい、ふらつきなど
  3. 抗ヒスタミン作用
    →眠気、体重増加
  4. 抗ムスカリン作用による視力調節障害
  5. 手足の痙攣・振戦、全身の痺れなど
  6. 性格変化・他害行為など
    作用の強さ
副作用の強さ
タイプ 商品名 NA
ノルアドレナリン
ST
セロトニン
抗コリン
便秘・口渇
抗アドレナリン
めまい・ふらつき
抗ヒスタミン
眠気・体重増加
三環系 アナフラニール ■■■■ ■■ ■■■
トリブタノール ■■■■■ ■■■ ■■■■■
トフラニール ■■■■ ■■■■
ノリトレン ■■■ ■■ ■■■■
アモキサン ■■ ■■■
四環系 テトラミド ■■■ ■■■■■
ルジオミール ■■■■■
パキシル ■■    
ジェイゾロフト 0  
ルボックス 0      
レクサプロ 0      
SNRI サインバルタ      
イフェクサー      
トレドミン      
NaSSA リフレックス ■■■■■

3.2 離脱症状(抗うつ薬中断症候群)

薬物を完全に断った場合のみならず、服用を続けながら減量した状態でも症状が現れる症状のことをいいます。

抗うつ薬の離脱症状は、DSM-5においては「抗うつ薬中断症候群」の診断名として扱われています。

離脱症状

動揺、不安、アカシジア、パニック発作、短気、敵意、攻撃性、気分の悪化、神経不安、泣きまたは情緒不安定、活動過多または活動亢進、離人症、集中力の低下、思考速度の低下、混乱と記憶及び集中の困難

離脱症状は薬の種類、個人差、服用期間によって1〜2週間でおさまる場合もありますが、数か月続く場合もあり、かなり苦しい症状に陥る場合もあります。

抗うつ薬(特にSSRIのパキシルで起きやすい)で発生する離脱症状に
耳が「シャンシャン」
手足が「ビリビリ」
するものがあり、俗称として「シャンビリ」と呼ばれることもあります。
離脱症状は血中濃度が急に下がったことによる身体反応が原因と考えられていますが、はっきりしていません。

シャンビリで起こる症状

耳鳴り、しびれ、めまい、発汗、吐き気、目がチカチカする感覚
音や光に対して過敏になる、震え、ソワソワ感

3.3 セロトニン症候群

抗うつ薬類を服用中に、脳内セロトニン濃度が過剰になることによって起きる副作用です。
抗うつ薬以外にも、ハーブの「セント・ジョーンズ・ワート」の過剰摂取で起こると言われています。

セロトニン症候群

・自律神経症状
体温の上昇、異常発汗、緊張、高血圧、心拍数の増加、吐き気、下痢
・神経・筋肉症状
ミオクローヌス、筋強剛、振戦、反射亢進、緊張と緩和の繰り返し
(あご、歯をがちがちさせる、など)
・精神症状
混乱、興奮、錯乱、頭痛、昏睡

3.4 アクチベーションシンドローム(腑活症候群)

SSRI,SNRIといった抗うつ薬の副作用の一種で、初期投与や増量時に起こりやすいため、「初期刺激症状」とも言われています。
症状としては、境界性人格障害、双極性障害のような状態を示し、リストカット、自殺行為に至るなど危険な症状が現れます。

アクチベーションシンドローム

不安、焦燥、不眠、敵意、衝動性、易刺激性、アカシジア、パニック発作、軽躁、躁状態などを呈し、悪化するとリストカットなどの自傷や、自殺行為、攻撃性が高まる。

SSRIの広がりとともに自傷行為、自殺が増加。
自殺が2000年から3万人に増加し、不景気のせいと言われていましたが、実は1998年から始まった「うつ病キャンペーン」のSSRI投与の広がりが原因。